東京地方裁判所 平成6年(ワ)15382号 判決
主文
一 別紙物件目録<略>の土地建物について競売を命じ、その売得金を本訴原告(反訴被告)に2分の1、本訴被告(反訴原告)ら4名に各8分の1の割合で分割する。
二 本訴被告(反訴原告)らの反訴請求を棄却する。
三 訴訟費用は本訴反訴を通じ、本訴被告(反訴原告)らの負担とする。
事実及び理由
第一 請求
(本訴)
主文一項同旨
(反訴)
田中甲子作成名義の東京家庭裁判所平成6年(家)第4175号遺言書検認審判事件において平成6年4月26日に検認された別紙自筆証書遺言は無効であることを確認する。
第二 事案の概要
一 本訴原告(反訴被告)(以下「原告」という。)は、別紙遺言(以下「本件遺言」という。)が有効であるので、別紙物件目録記載の土地建物(以下「本件土地建物」という。)の共有持分があるとして、他の共有持分権者である本訴被告(反訴原告)(以下「被告」という。)らに対して共有物の分割を請求した(本訴)のに対し、被告らは本件遺言が無効であるとして、反訴を提起した。
二 争いのない事実、当裁判所に顕著な事実
1 田中甲子は本件土地建物について8分の4(2分の1)の共有持分権を有していた。
2 被告らは、本件土地建物について、各8分の1の共有持分権を有している。
3 田中甲子は平成6年1月3日に死亡した。
4 田中甲子の相続人は、長女田川花子、二女川上桜子、長男田中三郎(昭和48年6月13日死亡)の妻である被告田中夏子、長男田中三郎の子である被告田中春子、同田中二郎、同田中冬子、三女村田梅子、四女大山竹子、二男原告、五女大田松子である。
5 本件土地の上に本件建物が建っており、本件土地は現況のままでは現物分割は困難である。本件建物は、1棟の建物であり、現物分割に適さない。
6 原告は、被告らを相手方として、東京北簡易裁判所に共有物分割請求の調停の申立(平成6年(ノ)第K53号)をしたが、被告らは出頭せず、右調停は、合意の成立の見込みがないとして、民事調停法14条により調停不成立として終了した。
本件訴訟においても、弁論兼和解期日を重ねて和解を試みたが、合意にいたらず、これを打ち切った(顕著な事実)。
7 被告らは、平成7年8月21日本件第8回口頭弁論期日において、遺留分減殺請求権を行使する旨の意思表示をした(顕著な事実)。
原告は、平成7年9月18日本件第9回口頭弁論期日において、被告らの遺留分減殺請求権の行使に対して、消滅時効を援用をした(顕著な事実)。
三 争点
1 本件遺言は無効か。
(被告ら)
本件遺言は田中甲子の自筆によるものではない。
本件遺言は被告らの遺留分に全く配慮がない。
本件遺言に記載された遺贈不動産について所在地番、面積、共有持分が表示特定されていない。
よって、本件遺言は無効である。
2 遺留分減殺請求権は時効によって消滅しているか。
(原告)
原告は、平成6年3月6日に被告ら宅において、被告らに、本件遺言書を示して、その内容を告知し、その写しを渡した。被告らはその時に、減殺すべき遺贈があったことを知ったが、その後1年間以内に、遺留分減殺請求権を行使していない。
第三 判断
一 乙一〇の1~4にある田中甲子の署名部分の筆跡は、パスポートの所持人自署欄の署名であるから田中甲子の署名であると認められる。鑑定の結果によれば、本件の遺言書中の筆跡は右パスポートの所持人自署欄の田中甲子なる筆跡と同一人の筆跡であると認められ、これに反する証拠はない。
本件遺言書は田中甲子の自筆により作成されたものであると認められる。遺言に遺留分について配慮のないことは遺言を無効にする理由にならない。また、本件遺言は「田中甲子所有の不動産である東京都荒川区西尾久7丁目60番4号」と目的不動産について表示されており、本件土地建物の特定として完全なものとはいえないが、弁論の全趣旨によれば、同人の財産は本件土地建物のみであったのであり、他に同一性を混同するような財産は見当たらないのであるから、その内容が不特定であるとして無効となるような不正確性はない。
二 被告らは、平成6年3月6日に、減殺すべき遺贈があったことを知ったことを明らかに争ってはいないうえ、本件訴訟に先行する調停事件が平成6年7月21日に終了しており、遅くともその時点までに、被告らは知っていたと認められるので、被告らの遺留分減殺請求権は時効により消滅している。
三 以上の通りであり、被告らの反訴請求は理由がなく、前記争いのない事実及び当裁判所に顕著な事実によれば、原告の本訴請求は理由がある。
(別紙)物件目録<略>